30代技術士の成長記録

令和元年度技術士二次試験に合格した30代技術士(機械部門)の成長記録です

技術士の資質(コンピテンシー)向上 4力で抑えるべきポイントその②

  前回に引き続き、4力についてまず抑えるべきポイントを具体的に説明していきます流体力学熱力学についてです。

材料力学機械力学は以下のリンクから↓

chuckmechanicalpe.com

f:id:mechanicalpe:20200603000617j:plain

 

 

 

 

 

3.流体力学

 流体力学のベースはパスカルの原理とベルヌーイの定理、連続の式ですまずはここを押さえましょう。

パスカルの原理

 例えば産業機械においては、アクチュエータの一つに油空圧シリンダがあります。これらの推力を計算するにはパスカルの原理が必要です。以下の公式ですね。 

\displaystyle{P=F/A} 

 エアチャックの把持力などでも計算しますが、計算を間違えると弱い場合はワークを落下させることもあり、また強い場合は変形させてしまう場合もあるでしょう。エアチャックに関しては摩擦力という概念も重要です。別の記事で詳しく解説します。

ベルヌーイの定理

 ファンモーターの選定時は流量-静圧特性図の見方を確認する必要があり、ここでベルヌーイの定理が役立ちます。以下の公式のうち、第1項が動圧(流量から計算し得る圧力)、第2項が静圧です。つまり、動圧と静圧の合計値は等しくなるということを意味しています。※空気の場合、第3項の位置水頭は他と比べて限りなく小さいため無視します。

\displaystyle{ \frac{ρv²}2 }+p+ρzg=const.
連続の式

 連続の式とは流体の質量保存の法則です。配管に流す必要流量(流速)から、流体の速度と断面積の積は一定となり、ここから配管径が設計できます。

\displaystyle{Q=AV} 

 余談ですが配管の選定時は流体による圧力に耐えうるものかどうか確認が必要です。詳しくはフープ応力の計算で説明します。

圧力損失

 そして重要な要素として圧力損失というものがあります。圧力損失とは、電気で言うところの抵抗です。ベルヌーイの定理では、前述したとおり、動圧、静圧の和(全圧)は一定になりますが、実際はそうではありません。流路の入り口と出口では全圧に差が出ます。この差を圧力損失といい、摩擦損失というように配管やシリンダなど流体が流れる『面の表面粗さ』や『形状(ベンドや断面変化)』によって程度が変わります。この圧力損失をいかに減らすことができるか?また予め見込んで設計できるかが重要です

流体の種類

 設計で主に会う使う流体としては空気、油、水になります。特に産業機械では空気と油を用いてエネルギーの伝達を行う油空圧機器をよく用います。油と空圧機器はデメリット、メリットによって使い分けが必要です。詳しくは別途記事にします。

油空圧機器の全体像を知る

 流体力学を産業機械で応用する場合、油空圧機器に関する知識は必要です。必要最低限、一次側からアクチュエータまでの大まかな機器構成を把握しておきましょう。また、各機器選定に必要な流体力学知識との紐づけを行っておくことで、あとで一から勉強しなおすという手間も省けます。

 

まとめると、

・パスカルの定理、ベルヌーイの定理、連続の式をまずは押さえましょう。どのような時に使うのか?実例と紐づけて覚えると良いです。

・圧力損失を減らすこと、圧力損失を見込んで設計することが重要です。

・流体の種類は主に空気、油、水。産業機械においては油空圧機器というアクチュエータを使用します。

・油空圧機器の大まかな構成を把握し、選定に必要な知識を紐づけましょう。

4.熱力学

 熱力学は、熱という目に見えないエネルギーを扱う意味で、非常に難しい学問です。一歩間違えれば機械を壊し、非常に危険な事故に繋がります。また、熱力学は他と比べて専門性が高いという認識です。よって初学者がいきなり広範囲を学ぼうとするのはナンセンスです。まずは以下のような基礎的な内容を覚えて、必要に応じ範囲を広げていきましょう。

熱力学の法則

 熱力学の法則は第0~第3法則まで存在します。特に第1法則と第2法則は覚えましょう。

熱力学の第1法則・・・エネルギー保存則と同様に熱と仕事の総和は一定である。熱も仕事と同じくエネルギーの一形態であるため。

熱力学の第2法則・・・熱エネルギーのすべてを連続的に仕事に置き換えることは不可能である。熱は高温から低温に移動する。すべての熱を仕事に変換することは不可能。つまり永久機関は不可能であることを意味しています。

 

 第1法則を身近な設計で例えてみます。モーターは電気エネルギーを用いて回転させておりますが、モーター自身は回転させるだけでなく自身を発熱させています。これが意味することは、入力と出力はイコールではないということです。発熱は当然意図的なものではありませんが、これが効率低下になり設計通りの出力が得られないこともあります。よってこの法則を知っているか知っていないかで、機械力学の計算にも役立てれるということですね。私の経験では効率低下を見込んで入力の0.85倍で計算します。

 

熱伝達と熱伝導

 熱伝達と熱伝導よく間違えやすいです。違いを整理していきましょう。

熱伝達・・・固体壁が温度の異なる流体に接しているとき、流体に流れを生じながら熱量が移動する現象

熱伝導・・・熱が物体の内部を移動して伝わる現象。

 

 熱伝導における熱伝導率は、機械設計における材料の選定で重要な要素になりえます。例えば、高温のモーターはその状態を維持し続けることで故障の原因にもなります。大抵駆動部品はケーシングなどで囲われていますが、この熱がこもらないように熱伝導係数の高い材料を使います。逆に、保温を目的としたり、安全上の理由で外部に熱を漏らしたくない場合は係数の低い材料を用います(私生活でよく使うのは水筒など)。私たちの身近な材料で、係数が高い材料はアルミニウム合金です。逆に低いのはオーステナイト系ステンレス。

熱膨張は熱力学ではない

 熱という言葉が入るだけで勘違いしそうですが、熱膨張は材料力学の範囲です。が、少し触れておきます。熱膨張とは物体が受ける温度によって生じる形状変化を熱膨張といいます。熱膨張は、高精度の部品を製作したい場合、温度変化による微小な形状変化も許せない場合に重要な要素となります。そのような部品は大抵温度変化を許さない恒温室で使用されたり、製作時も熱変化が出ないよう時間をかけて加工したり、検査時も恒温室において測定を行います。よって、条件に応じてどの様な誤差を生じるのか?調べる必要がありますね。そのために熱膨張係数が重要になってきます。ちなみに焼き嵌めはこの熱膨張を応用している技術です。常温時では軸より小さい径の穴を、加熱し膨張させることではめ合わせ、常温に戻した際に堅く結合できるのです。

 

まとめると、

・自信がない方は、いきなり広範囲を学ばないことが重要です。

・まずは熱力学の法則を抑えましょう。

・熱が発生することで機械の効率は低下するという認識を持ちましょう。

・熱伝達と熱伝達を正しく使い分けましょう。

・熱膨張は熱力学ではありませんが、高精度な部品を設計する際、非常に重要な要素となります。

 最後に

 4力のすべてを理解しようとするとそれは途轍もない時間がかかります。自分の専門分野において、その専門性を高めるステップにするつもりでまずは勉強する、これをお勧めします。その為には『自分の専門分野に必要な知識が何か?』を調べることから始めなければなりません。このプロセスの重要性に気付けるかどうかが最も重要なことではないかと考えます。

 また、壊れない機械を作るすなわち信頼性を高める為には、原理原則に従って設計することが重要だと認識していただき、自己研鑽に励んで頂きたいと思います。

f:id:mechanicalpe:20200529213240j:plain